全てが。
 何もかもが。
 染まっていた。
 そう言う風に。
 見えた。

 でも。
 違うと。
 思った。
 それは。
 違うと。
 知った。

 否。

 知らされた。

「捨て置け」

 声が。
 届いた。

「宜しいのですか?」

 二つ目。
 それは声。

「この場で果てるのならば、それだけの話だ」

 何か。
 何が。
 何を。

「スパルタでしょうか?」
「……乱暴?」

 少し。
 変わった。
 劇的?
 違う。
 僅かな。

「ご随意に」

 まるで全てのピースが納められたかの様に、その時に思い知らされた。
 望むと望まずに関わらず、それは何気ない日常の一場面だった筈なのに、なのにその全てから。それこそ世界の全てから今は切り離され、肉体に魂に叩き込まれたのだと言う現実を思い知らされる。
 誰に、ではない。
 どうして、でもない。
 何故に、とは聞きたい。けれど許されない。
 まるで目覚めて食事を取る事を、疲れたら休む事を知っている様に。
 本能として。

「相変わらずだね……まあ、それもいいけど」

 風を、最初に感じた。
 肌に突き刺さるソレは、まるで歓喜の産声。
 冷たいわけではない、けれど痛みを伴う。
 そこに乗せられて鼻腔に届いたのは、何かの焦げる臭いであり揺さぶられて反応を取り戻した肌がとても硬質なものに触れていると言う事を教えてくれる。
 一つを感じると、まるで連鎖反応の様に次々と様々な事を教えられて半ば呆然としたくなるけれど。

「でも、僕以外の。特に女の子相手にそう言う無愛想な態度って、あまり良くないと思うよ? 評判に傷とかつくかも知れないし」

 そぐわない、声だ。
 少女が持つ特有であり、そして聞いたことがあると記憶の片隅で思ったけれど。
 気づくのは、今では無かった。

「あ、でも君が評判を気にした事ってないよね? やっぱり人生に余裕のある奴は違うね」
「そうですね、不特定多数の方の評判を気にするほど許容量は多くはないつもりです。
 私は今、学生の身分ですし……」
「何、自由を満喫したいと言うことか?」

 笑みを含んだ声は、高く心地よい。
 落ち着いた声は何事にも動じる事のない様な気さえさせるのが不思議だ。

「ま、それは僕もだがな……」

 その言い分は、かなり嫌味がこめられてる様に聞こえたけれど。それもやはり、後に思い返して得た思いで……そして、消えた。